「日本の平均所得は575万円」
このニュースを見て、どう感じますか?
「えっ、自分はそんなにもらってない…」
「まわりと比べて低いのかな…」
そんなふうに落ち込んだ経験、ありませんか?
実は、落ち込む必要はまったくありません。
この国では、6割以上の世帯が「平均以下」だからです。
……変な話だと思いませんか?
平均なのに、6割が平均以下。
でも、これは統計のカラクリを知れば当たり前のことなんです。
こんな言葉があります。
「数字はウソをつかない。でも、ウソつきは数字を使う」(作者不詳)
数字そのものは正しい。
でも、見せ方ひとつで、受け取る印象は大きく変えられます。
この記事では、高校で数学を教える教員として、
「平均値」と「グラフ」にひそむ2つのワナを解説します。
読み終わるころには、ニュースの数字がひと味違って見えるはずです。
ワナ①:「極端な数字」に引っ張られる「平均値」
まず、平均値とは何かをおさらいします。
平均値は、文字どおり「平らに均(なら)した値」。
砂山をきれいに平らにならしたときの高さのイメージです。
計算はシンプルで、全部足して、個数で割るだけ。
でも、このシンプルな計算に、大きな弱点があります。
【実例】4科目25点でも、平均は40点になる
極端な例で考えてみましょう。
5科目のテストで、こんな点数を取ったとします。
25点、25点、25点、25点、100点。
さて、平均点はいくらになるでしょう。

合計は200点。
5で割ると、平均は40点です。
4科目は25点しか取れていないのに、100点が1つあるだけで、平均はグッと跳ね上がりました。
平均値は、極端に大きい(小さい)数字に引っ張られる。
これが平均値の性質です。
教員として、テスト返しのときによく感じることがあります。
「平均点より下だった…」と落ち込む生徒。
でも、クラスに数人、満点近い生徒がいれば、平均点はぐっと上がります。
その平均点の少し下は、実は「真ん中あたり」ということも珍しくありません。
平均との比較で一喜一憂する前に、その平均がどうやってできた数字なのかを疑ってみる。
これが数字に強くなる第一歩です。
「平均所得575万円」のカラクリ
冒頭の話に戻ります。
所得金額の分布は、次のグラフのようになっています。

厚生労働省の2025年調査によると、1世帯あたりの平均所得金額は575万2千円です。
でも、所得の世界には「極端に大きい数字」を持つ人たちがいます。
ごく一部の高所得世帯が、平均をぐっと引き上げているのです。
テストの「100点」と同じ構図ですね。
そこで役に立つのが、もうひとつの指標、中央値です。
中央値とは、データを小さい順にずらっと並べたとき、ちょうど真ん中にくる値のこと。
一部の極端な数字に引っ張られにくいのが特徴です。
では、所得の中央値はいくらでしょうか。
| 指標 | 金額 |
|---|---|
| 平均値 | 575万2千円 |
| 中央値 | 451万円 |
その差、約124万円。
そして、平均所得金額以下の世帯は61.5%。
「平均なのに6割が平均以下」の正体は、これでした。
「実感に近い数字」を知りたいなら、平均値より中央値。
これだけで、ニュースの見え方が変わります。
【参考サイト】2025(令和7)年国民生活基礎調査の概況(厚生労働省)
ワナ②:グラフは「見せ方」で印象を変えられる
数字のワナは、平均値だけではありません。
むしろ、もっと日常的に目にするのがグラフのワナです。
グラフの強みは、パッと見ただけで情報が伝わること。
でも、その強みは逆手に取ることもできます。
代表的な手口を3つ紹介します。
(以下のグラフのデータは、すべてダミーデータ。画像はAIで生成しています。)
手口1:3Dの棒グラフ

棒グラフを立体にして、斜めから見せる。
すると遠近法で、手前にある棒ほど大きく見えてしまいます。
データ上、数字が減っているのに、3Dだと増えているように見える。
見せたい項目を手前に置くだけで、実際の差以上に「伸びている」印象を与えられるのです。
手口2:3Dの円グラフ

円グラフはピザのイメージです。
面積が大きいほど、その項目が多い。
これを3Dにして傾けると、やはり手前の項目が実際より大きく見えます。
上の円グラフでは、自社製品が一番割合が小さいのに、3Dにすると大きく見える。
こんな円グラフ、見たことありませんか?
手口3:軸の切り取り

意外と多いのはこれ。
たとえば「省エネ性能アップ!」と宣伝したい製品があるとします。
縦軸を0から100で描くと、旧製品との差はごくわずか。
でも、縦軸を70から100に切り取ると、同じデータでも差が何倍にも大きく見えます。
上の画像のデータを例に取ってみても、
実際の「旧製品」と「改良後製品」の差は8%でも、縦軸が70からにすると差が2倍もあるように見えてしまう。
数字は1つも変えていません。
軸の始まりを変えただけです。
数字はウソをついていない。でも、印象はまったく違う。
これが「ウソつきは数字を使う」の意味です。
ちなみに、この3つの手口には共通点があります。
どれもデータの捏造は一切していないことです。
正しい数字を、正しい計算で、正しくグラフにしている。
それでも、見る人の印象は自在にコントロールできてしまう。
だからこそ、受け取る私たちの側に「見抜く目」が必要なのです。
だまされないための3つのチェック
難しい統計の知識はいりません。
数字やグラフを見たら、この3つを確認してみてください。
チェック1:その「平均」は、中央値とセットか
平均値だけが示されていたら、「極端な数字に引っ張られていないか?」と一歩引いて見る。
中央値も探してみる。
チェック2:グラフの軸は0から始まっているか
縦軸の始まりの数字を見るクセをつける。
0以外から始まっていたら、「差を大きく見せたいのかな」と考えてみる。
チェック3:誰が、何のために出したデータか
そのグラフを出しているのは誰か。
何かを売りたい人ではないか。
出どころ(出典)は書かれているか。
この3つを意識するだけで、数字への「だまされにくさ」は大きく変わります。
数字に強くなると、お金にも強くなる
私がこの話を大切にしているのは、数字のワナはお金の場面にこそ多いからです。
- 「平均利回り〇%」をうたう投資の広告
- 効果を大きく見せるグラフ付きの商品パンフレット
- 「みんな持っている」と思わせる保険の加入率データ
どれも、数字そのものはウソではないかもしれません。
でも、見せ方に「意図」が乗っていることがあります。
「平均利回り」なら、極端に良かった年が平均を引き上げていないか。
「右肩上がりのグラフ」なら、軸がどこから始まっているか。
パッと見の印象で判断せず、中身の数字まで見る。
それが、大切なお金を守るリテラシーになります。
まとめ
- 平均値は極端な数字に引っ張られる。
実感に近いのは中央値(平均所得575万円に対し、中央値は451万円) - グラフは見せ方で印象を操作できる。
3D化と「軸の切り取り」が代表的な手口 - 見抜くコツは3つ。
中央値とセットか/軸は0からか/誰が出したデータか
数字はウソをつきません。
だからこそ、数字を「どう見せているか」に、その人の意図が表れます。
今日、ニュースやSNSでグラフを見かけたら、ひとつだけ確認してみてください。
縦軸は、0から始まっていますか?
それだけで、あなたは今日から「数字にだまされにくい人」の仲間入りです。
皆さんも、「こんなグラフを見ました」など気づいたものがあったら、ぜひコメントで教えてください。
そこには、いろんな意図が隠されているかもしれませんね。
くりはら けんでした!


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